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糖尿病患者の食事指導               東京大学大学院医学系研究科生物統計学/疫学・予防保健学  片桐あかね
1.食事指導における食事調査  食事指導を行うに当たっては、対象となる人の食事摂取状況の実態を把握し、それに見合った指導を することが必要となります。そして目標どおりに改善されたか否か評価を行います。この実態把握には食 事調査がなされますが、評価については、他の指標とともに取られる、あるいは他の指標で代用されてし まうことが多くあります。しかし食事摂取状況がどのように変化したのかを知りたい場合には食事調査をす る以外に方法はありません。このように食事指導には食事調査が重要な役割を果たします。
2.臨床と研究  時々、臨床と研究では違うからという言葉を聞くことがありますが、本当にそうなのでしょうか。食事調査 を考えた場合にも、臨床と研究では違うのでしょうか。どちらも目標とするものが、可能な限り正しい食事 摂取状態を把握したいということでは同じです。しかし完全に正確に実態を捉えることが不可能であり、そ れぞれ一長一短のある食事調査法を目的に応じて使いわけるしかない現状のために、そう捉えられるの でしょう。つまり、臨床だから研究だからということで方法が違うのではなく、主にどういう結果が必要かが 異なるので採用する方法も違ってくるということです。臨床においても、より良い評価方法を見つける等の ために、集団で検討することを第一の目的とする場合には、個人対応とは方法が違ってきます。
3.糖尿病について


      平成9年11月に行われた糖尿病実態調査で
      は、糖尿病が強く疑われる者890万人、糖尿
      病の可能性を否定できない人1370万人と推
      定されました。そして通院中の糖尿病患者は
      218万人であると言われています。従って現
      状では、臨床で対応しているのは糖尿病の
      一部であると言えます。しかし、IGT(耐糖能
      障害)の段階から糖尿病特有の合併症のリ
      スクがあることが明らかとなっており、IGTあ
      るいはIFGの段階(日本特有の分類である境
      界域糖尿病)から血糖コントロールを行うこと
      が望ましいと考えられています。

4.糖尿病における食事指導の評価  糖尿病においては、食事療法・運動療法・薬物療法が治療の三本柱といわれており、食事管理には 力が入れられています。糖尿病の発症は、耐糖能正常からIGT(あるいはIFG)を経て糖尿病に至ります。 どの段階においても、血糖値を正常な値に保つことが重要で、食事指導も血糖コントロールを目的にして 行われます。しかし、「どのような食事指導を行うと、どのくらい血糖値が下がるのか」を示した報告は日本 にはほとんどありません。それにも関わらず食事指導が行われてきた理由としては、まず観察研究の結果 で指導効果を類推していたことや欧米での研究結果を用いたことが挙げられます、特に糖尿病の場合、 食事指導をした結果を血糖値の変化で評価することが多いですが、これですと食事以外(身体活動、薬 など)の影響を含めた総合評価になってしまいます。どうして総合評価なのかを考えると、食事の部分だ けを切り出して評価することが技術的に困難であったことが挙げられます。従って糖尿病においても、高 脂血症と同様、食事に関する証拠に基づく科学的な検証が必要であると考えられます。
5.糖尿病の予防研究  一般に臨床での食事指導(調査)は糖尿病患者を対象にしています。一方で、糖尿病合併症の発症 予防研究や糖尿病そのものの予防研究が実施されつつあります。このような予防研究の場合、時間の流 れにそって対象者の疾病発症を追いかけることになるので、研究期間は長期になります。しかも生活習慣 病と呼ばれる疾患の発症に関わる因子はたくさん考えられるので、多項目について調べることになり、多 人数の対象者が必要になります。これらを満たすために長期多施設共同研究がなされます。
   食事に関わる情報は多岐にわたっているため、正確に把握をするのは困難     そのため多人数をとって集約する … 長期多施設共同(大規模追跡)研究の実施                               →標準化しやすい方法が望まれる     →解決策の一つが調査票を使う調査 … 調査票を使う場合には調査票の精度を                             使いたい対象で確認しておくことが必要     →日本では糖尿病患者のために開発あるいは確認された調査票がない       まずは、2型糖尿病の外来患者で食事歴質問票の精度(再現性と妥当性)を確認した

  食事記録や食事歴法で徹底して調査することもできないわけではないが…       例:DCCT研究(3) 食事調査をする栄養士に研修を行い、技術習得を確認した上で                   当研究への参加を認めた。 かなり複雑な食事歴を取っている。                   研究全体では1,441名だが、食事調査実施者は267名であった。 6.欧米で行われた長期多施設共同研究の紹介(大規模研究が良いと言うわけではありませんが…) ● UGDP(4):2型糖尿病患者1,000名を対象に平均5.5年間の追跡が行われた。様々な治療法によ    る血糖コントロールの改善がなされたが、いずれにおいても心血管系イベント発症リスク低下を示す証   拠は得られなかった。 ● UKPDS(5): 新規2型糖尿病患者5,102名を対象とし10年間(中央値)の追跡が行われた。食事運   動指導と経口糖尿病薬投与とインスリン投与による血糖コントロールが糖尿病関連イベント発生に与   える影響を検討したが、3群での違いは認められなかった。いくつかの挿入研究がある。 ● DCCT(6): 1型糖尿病患者1,441名を対象に6.5年間(中央値)の追跡が行われた。強化インスリン   治療が細小血管障害に与える影響を検討し、発生予防と進展防止効果があることが認められた。食   事調査は詳細な食事歴法が実施された。 ● DPP(7): IGTとIFGが2型糖尿病に移行するのを防ぐあるいは遅らせる方法を検討する。対象者   3,000人以上、2 2/3年で登録を行い、3 1/3〜5年の追跡を行う。食事運動指導群、メトフォルミン群、   コントロール群での比較を行う(試験開始時にはトログリタゾン群があったが、肝毒性が認められ外され   た)。食事調査は自記式FFQであるが、どの調査票かは不明。1997年開始で現在進行中。>        【戻る】 参考文献1) Riley MD, Blizzard LB: Comparative validity of a food frequency questionnaire for adults   with IDDM. Diabetes Care 18(9): 1249-54; 1995. 2) 片桐他:糖尿病患者を対象とした食事歴質問票の再現性の検討.日本公衆衛生雑誌 45: 684; 1998. 3) Schmit LE, Cox MS, Buzzard IM, Cleary PA, for The DCCT Research Group: Reproducibility of  a comprehensive diet history in the DCCT. J Am Diet Assoc 94: 1392-1397; 1994.4) University Group Diabetes Program(UGDP): Effects of hypoglycemic agents on vascular   complications in patients with adult-onset diabetes. VII. Mortality and selected nonfatal events   with Insulin treatment. JAMA 240: 37-42; 1978. 5) UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group: Intensive blood-glucose control with   sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in   patients with type 2 diabetes (UKPDS33). Lancet 352: 837-853; 1998.6) The Diabetes Control and Complications Trial Research Group: DCCT: Design and   methodologic considerations for the feasibility phase. Diabetes 35: 530-545; 1986. 7) The Diabetes Prevention Program Research Group: DPP: Design and methods for a clinical   trial in the prevention of type 2 diabetes. Diabetes Care 22(4): 623-34; 1999.